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名古屋高等裁判所 昭和52年(ラ)164号 決定 1977年12月05日

抗告人

岡崎市民信用組合

右代表者

近藤春次

抗告人

藤田芳郎

右両名代理人

榊原幸一

外二名

相手方(債務者兼所有者)

加藤幹三

主文

原決定を取り消す。

抗告人藤田芳郎が別紙不動産目録記載の不動産に対してした最高価金一、七八〇万円の競買申出に基づき同抗告人に対し右不動産の競落を許可する。

理由

抗告人ら代理人は主文同旨の裁判を求める旨申立て、その理由として別紙記載のとおり主張した。

まず本件抗告の適否につき判断するに、本件記録によると次の事実が明らかである。

原裁判所は昭和五二年八月九日午前一〇時競落期日を開き、別紙不動産目録(1)ないし(6)記載の不動産(以下本件不動産という)につき最高価金一、七八〇万円の競買申出をした抗告人藤田芳郎に対し本件不動産の競落を許可する旨の決定(原競落許可決定)を言い渡したところ、債務者兼所有者の加藤幹三から右決定に対し即時抗告の申立がなされたので、同年九月二六日付で再度の考案に基づき右の原競落許可決定を取り消し抗告人藤田芳郎の競落を許さない旨の更正決定(原決定)をした。そして原決定は即日原裁判所の掲示板に掲示され、加藤幹三に対してのみその決定正本が同年九月三〇日送達されたが、前記競落を取り消された抗告人藤田芳郎やその他の利害関係人に対しては原決定の正本は送達されなかつたところ、本件不動産につき抵当権を有しかつ前記の競落人でもある抗告人藤田芳郎及び本件不動産につき抵当権を有する抗告人岡崎市民信用組合の両名は同年一〇月六日原裁判所に本件抗告申立書を提出して本件即時抗告に及んだものである。

原決定に対して、抗告人らは利害関係人であり即時抗告申立権者であることは明らかである。

ところで、再度の考案に基づき原競落許可決定を取り消し、競落を許さない旨の原決定がその決定をした裁判所の掲示板に掲示されただけでは、右決定が相当な方法で告知されたものとはいいえないから、本件の場合、原決定が原裁判所の掲示板に掲示された日から即時抗告期間の一週間を経過した後に抗告人らの本件抗告申立書が原裁判所に提出されたからといつて、抗告人らの本件即時抗告を不適法なものとすることはできない。原競落許可決定につき即時抗告を申立てた加藤幹三に原決定の正本が送達されてこれが告知され、その外部的効力を生じた同年九月三〇日より後でかつ同日より一週間以内である同年一〇月六日にした抗告人らの本件即時抗告は適法なものというべきである。

そこで抗告理由につき案ずるに、<証拠>によれば、本件競売の債務者加藤幹三は、昭和四九年七月一〇日、債権者日興商事株式会社に対して手形割引、手形貸付、証書貸付、債務保証の各取引によつて生じた債務極度額二、五〇〇万円を担保するため、債務者所有の本件不動産ほか一筆の宅地及び本件不動産のうち(5)の工場内に備付けた旋盤等二〇点の機械器具と本件不動産のうち(6)の工場内に備付けた射出成形機等一六点の機械器具のうえに根抵当権を設定し、同月一一日その登記を経由し右機械器具につき工場抵当法三条目録も作成備付けられたこと、しかしその後、債権者日興商事株式会社は債務弁済契約公正証書に基づき債務者加藤幹三に対して有する金二、〇〇〇万円の債権につき強制執行するため、昭和五〇年五月六日現在右(5)(6)の各工場内に備付けられていた前記の各機械器具をすべて動産として競売に付することにして、同日右(5)の工場備付けの機械として登録された旋盤等一九点、右(6)の工場備付けの機械として登録された射出成形機等一五点につき工場抵当法三条目録から分離の登録をなさしめたうえ、その頃これら分離せられた機械器具に対する強制執行を申立て、昭和五〇年五月二二日の競売において日興商事自身がこれら機械器具の殆んどを競落し、即日これを本件抗告人藤田芳郎外一名に売り渡して引渡を了したこと、従つて前記(5)(6)の各工場の工場抵当法三条目録にはいまだに旋盤五尺(製作者・製造年月日不詳)一台と射出成形機(日射樹脂工業製作・昭和四五年製造)一台が登録されたままになつているけれども、本件不動産につき競売開始決定がなされ、その競売申立の記入登記がなされた昭和五〇年一〇月一五日当時には既に右二点の機械も前記(5)(6)の工場内には存在しなかつたことがそれぞれ認められる。

そうすると、本件競売手続においては、本件不動産のほかにはこれと共に競売に付すべき機械器具はその工場内に現存しないのであるから、本件不動産と共に競売に付すべき機械器具を競売に付さなかつた違法はないといわなければならない。なお記録を精査しても他に競落不許の事由を見出すことはできないから、原裁判所が再度の考案に基づき先にした原競落許可決定を取り消し、競落を許さないものとしたのは違法であり、原決定は取り消さざるをえない。

ところで本件の場合のごとく競落許可決定に対し即時抗告の申立があつて、原裁判所が再度の考案に基づいて右決定の一部取り消しに止らずその全部を取り消し競落を許さないとの更正決定をしたときには、先の競落許可決定が失効するほか即時抗告の目的もすでに達せられた訳であるから右抗告事件は当然終了し、抗告審において再度の考案に基づく右更正決定が取り消されても、先の競落許可決定は復活しないものと解するのが相当である。(当裁判所が原競落許可決定に対して即時抗告を申立てた加藤幹三を相手方と定めて反対陳述をなさしめた所以である)そうだとすれば、本件競売手続には前記のとおり競落を不許可にすべき事由は存しないのであるから、最高価競買申出をした抗告人藤田芳郎に対し本件不動産の競落を許可すべきである。

よつて原決定を取り消して抗告人藤田芳郎に対し競落を許可することとし、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 林倫正 杉山忠雄)

申立の理由<省略>

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